2020年8月25日火曜日

「殺し」の問題

「殺しの問題」っつても『ニキータ』や『レッドスパロー』じゃねえんだから当然殺人スキルのことではありません。土殺し、と言われてるアレです。

「土殺し」といわれる工程は何もロクロだけではないんですよね。

 生粉(ナマゴナ)を煆焼(カショウ)する、なんてのも殺しと言います。
 この場合は、
 1・吸着水の脱水
 2・先にある程度以上収縮させちゃう(多分)
 3・二次粒子をもっと生成させて扱いにくい超微粉すぎる微粉を減らして整えちゃう
 4・結晶構造を強制的に整える(ってこともありそう)
 5・気に入らない不純物、例えば有機物滓や可溶性塩類とかかな、を可能な分焼き飛ばしたり変質させる(これまた多分)
などなど、

 原料個々によっていろいろ細かい違いはありそうですが、とにかく成形しやすくするだけではなく、後々乾燥~焼成といった行程中の挙動を安定させる効果があります。というか少なくとも実感できます。

 粘土鉱物を煆焼して可塑性を低減させてみたり、酸化亜鉛を煆焼して亜鉛華にするなどといったパターンがこっち方面(伝統陶磁器の場合ね)ではよく知られてるかな?
 多分製土屋さんではこの辺の生土殺しのテクニックやメソッドがいっぱいありそうだ。

 ファインだと細かい粉末をわざわざ煆焼し二次粒子をデカく凝集させてのちにミルで何十時間も粉砕細磨するということも結構あるんですよ。


 また、プレス成形でも一度プレスして製品の形状にしたものを崩して再度原料粉末に戻して改めてプレス。するとなぜか壊れずに焼ける、なんてことが多々ありまして、いっぺんプレスして再度造粒した原料を「殺し粉(コロシゴナ)」などと言っております。
 俺もなんでだか全然意味わかんないんだけど本当にほんとなんですよ。

 ターミネーターも1のラストでプレス機でぶっ殺したら『T2』ではジョンの言うことよく聞いてましたよね。あんな感じ(誤解を招く不要な文章)
 
「なんでまた全ワレしてんだよ!いっぺん殺してからやってみろ」
「殺すのめんどくないっすか?」
なんつう修羅の国みたいな会話が現場では交わされてます。

 鋳込みも同様でいっぺん鋳込んだ成形体を(以下略)



 板づくりの場合、機械でも麺棒でもローラーすると厚みを整えてるだけでなく癖が付きます。手延べ?の場合は今コロコロしてる側に、マシンの場合は一気に両面から。板の芯とローラーしてる部分で密度や方向性の癖(差といってもいいかも)を付けてる。これはラミネーション問題にかかわってくるんですがそれは別の機会に。
 何とかの一つ覚えみたいに「締まる締まらない(密度上がる上がらない)」ってことだけじゃないはずで、視点によっては決して《均一》になってるわけじゃない。むしろ逆。

 皆さん経験あると思いますが、ローラーした板と切りっぱなしの板では同じ厚みでも反りやゆがみ、キレ(割れ)のパターンが変わりますよね。
 切りっぱなしの板ではバラエティ豊かで反る波の打ち方も一様ではなく、ローラーした場合の板はローラーの掛け方によってある程度決まったパターンで歪むなんて経験ありませんか?
 これは良し悪しではなく、土質や作りたいものによって取捨選択できると思いますし、半殺し全殺し?の程度の差こそあれ、ローラーする行為自体は「殺す」の一形態と考えられます。


 で、ロクロの場合。 

 まあ俺に言わせれば何しろ可塑性成形そのものが、基本的には作りたい製品になるように癖を上手につけるという行為の集合だと思っています。

 そのとっかかりが据え付けた粘土の土殺し。
 
 据えた粘土を何回ヌラヌラこすり上げようが、具体的に土がどうなればいいのかあいまいなままでは、「コブラ会」の先生のように「殺せ!」「殺せ!」といくらハッパをかけても(この辺『ベストキッド』参照のこと)気合いだけが空回りしちゃいますな。ロクロだけに。よくあるよくある。



 ここから先は解像度高く説明しにくくてマジコマなんですが、
 『使う分の土の、芯の芯までストレスなく動いてくれている感覚』というのを目指します。
 
 土が正確に回転対称にぶれずに回っている状態、はとりあえず「土殺しの目的」ではありません(と考えちゃってOK!)。そんなのはこれから指突っ込んじゃうぞーって言う玉取りする瞬間だけでいいです。
 芯出しは別の目的と技術(うまい人はいっぺんにやってるだけ)

 上げ下げしてる時、部分的に感じる違和感というか、なんか素直じゃないところがあるなあとか、特に奥の方芯の方(回転軸の辺)がいまいち連動性が悪いなあ~というのが慣れてくるとわかるんですが(しかも少々なら障害じゃなくなるのかも)、そういうのがない、大変スムーズな状態を目指します。

 できるだけ土の芯にまで影響力を加えられるようにイメージしています。俺の言い方だとフォースが芯まで届く(笑)
 細長高く延べ上げると物理的にはすぐ屈服させられるんですが、慣れないうちはそれを低くまとめるのが難しいんだよなあ。
 まあとにかく物理的でもスピリチュアルでもいいのでフォースを感じて操って、屈服でも懐柔でもいいのでモアスムーズに成るまで上げ下げしてくれ(笑
 
 その際に、力の量、角度、タイミング、のような物理的なコツもいろいろ試して自分なりに会得しましょう。できてんだったらそれでいいんだからさ。
 
 そのうちに、「征服した感」が訪れます。この人類の最悪な欲望の一つ、征服欲ですが、掌の中の粘土で済んでるんなら、そのぐらいいいじゃんかねえ。

 芯出しをするのはそれからでOKだよ!
 一緒にやろうとするよりずっと楽なはず。
 
 さっさと土殺しを終わらせて取り掛かりたいのはやまやまなれど、それが理由でしくじるんだったらもったいねえ。
 プロだったら「なんで中途半端で始めるんだよ!段取り八部!」なんつってよく怒られますよ。じっくりやったらやったで「いつまでやってんだ!おせえよ!」って怒られますけどね。



 とりあえず、コツというより目的と意識の持ちようをまとめますと。

 混練した時に付いた癖を取る、という風な説明をよく聞くのですが、それとともに、「(ロクロならロクロ)成形に適するように癖を付ける」という感覚も持っておくといいと思います。「俺がこうしたいからそうしやすい性質のものに変える」わけです。しれーということ聞かせちゃう。
 馬力にモノを言わせて力づくでもいいですし、あれでもいいですよ、あれ。同調圧力的な奴。

 こういうのは慣れてる方も多いんじゃないでしょうか。
「周りを見たまえ!チミ、ご覧のようにうちの社は皆幸せそうにサービス残業してるんですよ~。やり甲斐ですよ、チミ」ゾンビ兵隊社員一人出来上がり、みたいな


 とにかく、優れた将軍が兵士の集団を無駄なく自在に操るように(キングダム読み過ぎ)、北朝鮮の女の子がスタジアムいっぱい一糸乱れぬマスゲームを展開するように(あれホント凄いよね、恐ろしいけど)、とにかく独裁的にでもスムーズに言うことを聞かせる状態を目指す。フリーにするのではなく、方向性を与える、これが土殺しです。多分。

 技術はいくらでも上げ下げして身に付けてください。やれば勝手に身に付きます。それでもダメな場合はそもそも混練の段階で手抜きです。練り直せ!



 というわけで、わかりましたか?Sよ!
 お前自分の教室の先生のことバカにしないでちゃんということ聞けよ!いい先生じゃねえか!声カワイクね?

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