あくまでも「俺が今年読んだヤキモノ本」ということで、出版された年月日は無視します。俺が個人的に受けた感銘で選んでいますので異論はご勝手にどうぞ!
各部門ですが、
・大賞
・技術賞
・外国語作品賞
・超絶珍味賞
・最○○○賞
の5部門です。
まずは外国語作品賞から
Jacqui Atkinさん著
『Troubleshooting for Potters』
これは、作陶の一から十までの間に出くわすトラブルに対して原因と対策を分かりやすく整理した本です。ほぼほぼ箇条書きですので辞書を片手に頑張れば俺でも読めます。必要そうなところだけかいつまんで読んでもOKなタイプの本だしね。
まあこの方の著書はいくつも翻訳されてますが、多くがそうであるように、クラブレベルというか、これ以上詳しく知りたかったらちゃんとした人に聞くか本読むか開眼しろよ!という感じの内容です。私とてプロのハシクレとしては食い足りないというか、目新しい話はあんまりありません。
でもわかりやすく整理されてます。そんな失敗をしないようには~といった風に技法書としても使えるようになってもいます。素晴らしい。
原料調整、成形、加飾、焼成までページ配分はほぼほぼ等分ですよ!(当たり前ですが成形が一番ページ数少ない!)
こんな本って日本でも出てますかね?近いのはあるのかなあ?見たことないなあ。
俺的には無くてもいい本でしたが見事なコンセプトに賞を授けますよ!!!(この唐突な上から目線って・・・)
では次、技術賞は・・・・
黒田永二さん著
『焼物の謎に迫る』です。
本当はこれを大賞に推そうとも思ったんですが、もう中古でしか買えないので残念ながら部門賞です。すみません。事実上の大賞です。
実はこの本、古本屋で100円コーナーだったんですよ。なにしろこのタイトルの地雷臭に心惹かれちゃいまして。よーしオジサンツッコんじゃうぞ!とネタにする気満々のホクホク顔で一切中身確かめずにゲットしたんですが…
超真面目な、しかもわかりやすく読みやすいヤキモノ科学本でした!
どーもすみませんでした、ナーメテーターでした!と土下座しました。
著者はファイン畑の研究者、特にプロセシングの専門家の方です。ファイン最先端の現場と研究所を歴任してまして・・・しかも文章も上品でコクもキレもあります。ビールの宣伝以外で見たことねえ。
「陶芸家の皆さん、とやら」はこんなこと考えたことありましたか?(例えば、ラミネーション、という言葉、現象の持つ絶望的な力)、そして、自戒を込めて言いますが「ファイン屋さん、とやら」は一般陶磁器なめてませんか?(例えば、たかだか釉が薄皮一枚加わるだけでどこまで泥沼の底が深くなるのか)とだけ言っておきます。
メインイベントであり、白眉は、例のパワーワード「窯変」に迫る章です。著者の経歴からSiCをはじめとするカーバイド(炭化物セラミックス)にめちゃ詳しそう=還元焼成に死ぬほど精通してるはず、これは期待できる!といった流れでワクワク。読者各々の知りたい謎にどこまで迫ったかはともかくサイコーです。
まあ前後の文脈抜きに一文だけ抜き出すのも乱暴ですが、
~本来、窯変は全く偶然によるのであるから、窯出しした焼成品の中に区別できないほどよく似た窯変物が2個以上あるというのは、かなり珍しいと言わざるを得ない。~
わかりますかこのキレ味あるイヤミ。最高ですよね。ロマン派にもそうでない派にも是非読んでほしい!
ブルーバックス的な本なので、柔らかさの意味ではそう面白くもなく、科学的という意味ではいまいち詳しすぎないという、ともすると中途半端に陥ってないとも言いきれませんが、部分的には私(=理系レベルの足りないヤキモノ屋)にとって思いがけない見事な出会いでした。こういう風にキレカワな美女とも出会いたいものですな。できれば100円で。
お!今調べたらアマゾンで1円だぞ!急げ!
内容を俺が語るのもアレなんで、不躾極まりないながらも内容をコピペしておきます
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
焼物は素材のままではなくて、原材料に技術的な手段を加えてゆく間に、人の手の届かない工程をも経なければ完成した作品にならない。原材料の品質ばかりでなく、その後の製造技術にも大いに左右される。芸術的表現に対する才能に加え、化学的な能力も要求されることになるから、そこに焼物を神秘化する要素があるようだ。この本では、製造技術を専攻してきた立場から気付いた問題で、場合によっては神秘化されている事柄にも迫ってみた。
内容(「MARC」データベースより)
焼物は、原材料に技術的な手段を加えてゆく間に、人の手の届かない工程を経なければ完成品とならない。焼物の製造技術を専攻してきた著者が、科学者の視点から焼物について語る。
読めばわかりますが、これマジです!
もちろん、初級者の方や、ロマン原理主義者の方には買って読んでもつまらなかったよ!って人がいるのもわかんないけどわかります。急ぐな!
では、ついに大賞の発表です。
輝く、2019年(に俺が読んだ)ヤキモノ本大賞は…
『陶芸で多面体-フラーレン、ナノチューブ、トポロジー』
おめでとうございます!!
断っておきますが、この本、幾何学の本です。ヤキモノの本ではありません。ですので、ヤキモノの本が欲しい方は絶対に買ってはいけません。
内容ですが構造の研究者(大学の先生)の方が、なかなか実体験として出くわすことはないであろう『多面体をいじくった何か』とか『トポロジー的な何か』を、作って実感してみました!という本です。
年齢からいってもおじいさん先生。奥様が作陶趣味だそうで、ご本人は出発段階ではマジ素人。手伝ってもらって頑張りました!みたいな。なんだそりゃ!ですよ。
正直焼造物、作品としては失礼ながら微笑ましいレベルのものが多く、もちろん綺麗ににできてるのも多くありますが、それがご本人の上達なのか、裏で奥様が頑張ってくれたのか、って感じ。
実際の文章もヤキモノ部分に関してはほぼ「難しいけど面白いね!」ってだけで(失礼)、その構造体の数学的解説が我々にもある程度は分かりやすいように説明してくれてる分だけギャップがすごくて、なぜに陶芸…といったいろいろなんか違うんじゃねえかという気がしないでもない。
でもですよ、結晶に見るような構造や、ピタゴラス多面体?とかそんなのをCGイラストじゃなくて著者自ら手作りしたヤキモノで見るってのは結構おおッ!!とうなりました。俺自身が高等数学についていけないので具体的にはあれですが、あー実物はこうなるわけね!オモシロ!ですよ。
また、折り紙(とかペーパークラフト)で作ったモデルには、作った本人だけ感じる紙厚はともかく、とりあえずパッと見の視覚上の「厚み」が存在しないんでほぼ理論上の物体、と言えると思うんですが、ヤキモノで作る以上、必然的に「実存を主張する壁の厚み」が存在します。
たとえば、「メビウスの輪」を紙っペラで作ったことがない人はいないでしょ?あれを厚みのある粘土でぐるっとねじって作るわけ。そうすると、裏と表、だけじゃなくて明らかな側面ができますよね。さあこれって何面体になってるでしょうか?とかね。面白くないですか?
はっきり言って見方によっては構造工学(そんなんある?しらね)の専門家が八十にもなって素人陶芸にハマっちゃった挙句にみんな見てみて面白いもん作りましたよ!ってだけの本ですよ(ごめんなさい)。自費出版なのかな?みたいな。素晴らしいじゃないですか!
多分作品をすべてCGイラストに置き換えればいい大人素人向け高等幾何学入門書になるんじゃないかなあ。自分は半分理解できなかったです。幾何学本としてのクオリティはあるんじゃないかと思います。
とにかく、知的好奇心はかなり刺激されます。
そして、ヤキモノ屋であるワタクシはというと…
この中の各作品、実際いざ作ろうとするとかなり難しい(というか相当めんどくさい)モノをたくさん作っておられるんですよ。これなかなかできませんよ。
「俺だったらどう作るか、どんな作り方があるか」を、写真の枚数分、かなり真面目に考えますもん。
御本人製作品はほぼ板づくり。六角形とか菱形を何枚もたくさん作ってドベで張り付けて組み立ててます。
鋳込みだったら型の設計どうするか、同じ板づくりでも素地のチョイスで歪や仕上げかたをまるっきり変えられるはずだ、とか、ロクロで作ったのを面取りしたり刳り貫いて作るならその手順は?どんな道具があると都合よくできそうだろうか?とか、いやしくもヤキモノ人を名乗るのであれば課題や構想はいくらでも発見できます。
つまんないけど超面白いという不思議な本でした。
まえがき冒頭を引用します
《陶芸に取り付いて、伝統工芸作家の手になる壷や鉢などに惹かれつつも、造形の手掛かりを幾何多面体や数理モデルに求めることにした。美的に優れた形を生み出すには洗練された技とアートの感性が必要だが、数理には自然の法則性がもたらす美があるからだ。~》
賛!心から賛同します!
製作の方向性が自分と似てるのか…好きなわけだ…と今気づきました
釉薬の調合や小手先の技を知りたいだけが興味のすべてって人
いや、称えさせていただきます!!尊敬します!!
何度でも言いますが、幾何学の本です!ヤキモノの本ではありません(ごめんなさい!)
大賞も発表されましたしココからは肩の力を抜いてくださいね。
四つ目、
超絶珍味賞です。
もうお分かりですね!
二部門受賞、快挙です!
五部門目は最○○○賞。
○○○部分に入るべき言葉ですが、私の語彙力文章力では思いつかず○○○ということでお許しいただきたい。
これは古い本ですが、カミサンのもともと持ってた所有物。今年初めて読んでみましたのでね。
メチャンコ有名人だし、なんでかさっぱりわかりませんが大分リスペクトされてる方も多いようですし、俺ごとき馬のクソがいちいち細かいこと言いませんが、ムカついてムカついて反吐が出そうでした。一般論からは言いたいことがわかんねえわけでもないけどね。思想的に受け入れられないってやつだね、こりゃ。俺も心が狭いなあと再認識しするに至った次第・・・ジェダイへの道は遠し。
いまだに現役で流通してる本なんすよね~。いや、私も今を生きる現代人。言論、表現の自由は当たり前の根本です。人を憎んで本を憎まず(今日のキラーフレーズ)。
日本に真の民主主義が根付かねえわけだ!などという自分でもわかってない支離滅裂も甚だしい言いがかりをつけたくなりました。
以上、今年の「極私的ヤキモノ本アワード」でした。
今ちょうど時間かかる鋳込み&ポットミル回しやってるんですよ。眠くならないために今日2記事目を書いちゃいました。
まあ年末になると来し方行く末への不安で心を病みそうになりますですよ、ハイ。
とりあえずは今降温中のこの窯の出来栄えとか
まあそんな個人の心配はさておいて、世界規模での心配がこれだ!
面白い!いま2冊注文しちゃいました!
返信削除あー、二冊は買いすぎですね。間違いなく(笑
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