2018年3月6日火曜日

ムライト、あるいはムライトという名の棚板 について

 今回はうちの耐火物のユーザーの方、ネタ探しに来られている一般陶磁器関係の方どちらにも関係がある話です。

 過去にも何度か触れてきましたが、耐火物屋をやっていると「呼称の混乱」に少なからず出くわします。まあ、先日のサヤと匣鉢、なんてのは言い方違うだけなんで関係ないんでどうでも好きなように呼んでくれなんですが、素材として不明瞭って場合があります。(俺が思ってるだけかもですが)代表的なのがジルコニアで、「ジルコニアとジルコンについて」は一つまるまる記事として説明しました。

 もうひとつ、西の横綱と言えるのがムライトです。
何かしらの理由で何かしらの炉を使う方はなじみがあると思います。るつぼ、炉材、その他にもいろんな耐火物がムライトって名前で呼ばれています。

(この一輪挿しの中にもムライトはたっぷりあるぞ!)

 まずはムライトって何かってことなんですが、
ムライト(Mullite)化学式は3Al2O3・2SiO2=Al6O13Si2
 細かいウンチクは知りませんが鉱物名、化合物の名前ってことでいいと思います。
では耐火物などでセラミック製品として出回っている「ムライト製〇〇」、「ムライト質〇〇」がこれかっていうとほとんど違うと思います。細かーい純度はともかく純ムライトの物なんて自分はスパッタリングターゲット(4N)ぐらいしかかかわったことないんですよね。

 ほとんどのものは何らかの割合でアルミナとシリカでできているもの、という意味で慣習的に「ムライト」と言っています。
 低温(1300℃以下?)の試験用炉をよく使っている研究者の方や、一般の陶磁器を作陶されている方にとっての「ムライトの棚板」は1000℃以上になるたけしないでね、すぐボソボソに痛むから、なんていう「安いほうの棚板」だと思いますし。アルミナ90何パーセントで1600℃でバンバン使ってるようなルツボや高温耐火物もムライトって言われることもあります。
 「ムライトって持たないから気をつけろよ!」「ウソ、持つだろ?」噛み合わねー、なんてことにもなりかねません。というか噛み合いません。

 個人的な意見では(全部個人的見解ですが)ムライトなんつう難焼結性で密度上げるの難しいシロモノを「あー、あの安くてショボイほうの棚板の」なんて安直に思われるのは我慢がならねえ~!って感じなんですよね。ムライト舐めんな!みたいな(笑

 というわけでつくばセラミックワークスでは「ムライト粉末で作った純ムライト製」しかムライトと言わないことにしています。アルミナとシリカによる耐熱衝撃を上げた耐火物は「アルミナシリケート」とか、「アルミナ-シリカ系」としてます。まあお客さんの都合で「ムライト系」って言ったこともありますが系ですよ系、その際は組成はアルミナ何%シリカ何%で使用温度は何度ぐらいです。といった説明をしています。ムライトのこんなの作ってください、って言われることも多いんですが、どういう感じのモノなのかお互いわかんなくなっちゃってもしょうがないので。
 この言い方はファイン作ってる側からするとかなり一般的になってると思うんですが、ユーザーからはアルミナシリカ系=ムライトみたいです。

 ちなみにうちの場合はシリカの方がリッチなアルミナシリケートは作る必要性が今までなく、そんなのは既製品買った方が安かろう、ということで基準の材質としては設定してません(当然オーダーには対応可能)。アルミナリッチなものの場合、アルミナ粉末+ムライト粉末(+場合によっては高純度カオリン)で製作していますので、フリーシリカは建前上はない作り方です。

 おそらく例の「ムライトの棚板」は、うちの定義(っていうほど厳密なもんないですけど、俺の言い方ね)に従っていえばシリカーアルミナ(先に言った方がリッチ)になります。でシリカが使うたんびに結晶どんどん変わっていくので(石英からクリストバライトへ)スカスカになってボロけて持ちが悪いと。(自分は使うことないからどっかの研究室で見た印象だけで語ってますので間違いかも?)


 本当は世の中全部に「ムライト以外はムライトって言うな!わかりづらい!」と思ってるんでこっそりキャンペーンしてますが、そんなこと言ってもしょうがないんですよね。だってお客さんにとっては今までずっとムライトだったわけだし。アルミナ+ムライト+シリカになってんのは間違いないし。俺に権力ないし。

(今回、写真は話の内容と関係ありません)

 というわけで、ムライトってそういうことなんで決して安物とかショボイってことではないよ(というかそもそも耐熱温度が高い=高級ではないし、価格が高価=あなたに最適ってことでもない。適材適所)ってことを口の聞けない「ムライト」さんと、へぼ扱いの「ムライトの棚板」君に成り代わって弁明したい所存であります。そもそも純ムライトは別に安くねえし。

 最後に、アルミナにシリカが加わった「アルミナーシリカ系質」=「いわゆる巷間言われるムライト質」は耐火物的セラミックス的に純アルミナと比べてどうなるのかってことを自分なりに簡単に説明して終わりたいと思います。



 耐熱衝撃アップ
 ムライトの針状結晶が混ざりこむのと気孔率がどうしても上がってしまうおかげじゃないかなと思います。

 耐火度若干ダウン 熱間耐荷重ダウン
パキッと割れない代わりに高温でダレて曲がりやすくなります。割れてもいいのか歪んででも粘ったほうがいいのかで選んでください。
 軟化の仕方が違う等、単純比較はできないんですが、融点でいうとアルミナ2050℃、純ムライトで1850℃です。もちろん融点は使用可能温度の上限ではありません。

 シリカ混入が許されない場合は使えない。
 どうしてもフリーシリカはあるらしく、溶湯からコンタミとして分析されてしまうことがあり得ます

 るつぼとしても炉材としてもド定番の実力者です。


(写真がないと、左の壊れたタンゲプレステージのようになんとなくさみしいんです)


 なんかもっと言わなきゃいけないことあった気もするんですがこの辺で

 
 

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