今日は珍しいことしちゃったのでネタにしてみます。
まずは一段上?の乾燥テクについて。
ヤキモノの「窯開けたら破損(割れ、存在の耐えられない歪み)してた!」の98%は窯詰前までに原因があると思ってます(残りの1%が窯詰時のミス、1%が焼成ミス、ほかなんかあるかな?)。
98%中の40%強を占める(当社調べ)「乾燥でのしくじり」はぜひ減らしたいところ。絶対に知っておくべき乾燥法がありますよ~。
これから暖かくなってくると偏乾燥が問題になります。口元や取っ手、尖った部分、表側、縁、なんてところがさっさと乾き、奥まったところ、底、芯、分厚い部分、はなかなか乾きません。こうなると歪みや割れの危険信号。
これは大雑把に、土のきめが細かいほど、密なほど、保水量のでかい材料(粘土鉱物の微粉とか)が多いほど顕著です。可塑性の大きい粘っこい土なんかヤバイですよ。やたら乾燥収縮が大きかったりする土や、底がホガース線みたいな切れ方しやすい土だとテキメン。
皿とか板っぽいもの、厚っこい塊状の部分があるもの、薄っぺら、高台とか底の部分が広い、あとは何にしろデカいものですね。こういったものが偏乾燥からの破損コンボを喰いやすいです。そのまま置いといて乾かして上手くいくならいいんですが、コンボ喰らっちゃった経験があるのなら危険なもの作るときに知っておくといいのが「蒸気乾燥」です。
ほっとくだけ、たまにひっくり返すだけならみんな知ってるし思いつきます。テクニック、技術としての「乾燥法」は、この蒸気乾燥が基本だと思っていますし、これ知ってればたくさんです。
とりあえず一番簡単なやり方。
タッパーをかぶせるだけ
で、あったかくしておく、日光OK!
ある程度密閉されたなかで温度をかけて湿度をメチャ上げて乾燥させることを蒸気乾燥と言います。身から出た水分が行き場無くてどんどん湿度が上がります、でなんでだかよく知らないですけど表面だけ乾いたりせずに芯から表の皮までめちゃくちゃ均一に乾きます。ようは蒸してるわけですね。
乾くというか製品中の水分量があっちもこっちも均一化していく感じ。だから表面はずっとちょっと湿気てるような感じになりますよ。
水分が乾燥するには温度的なものと風に当たる二つがあるんですが、この場合は温度は上げるが風に当てないということですね。風に当たったとこだけ(つまり表ッ面だけ)乾いちゃうことを防いでいるわけです。
いい加減色が変わってくればもうカバーを取っ払ってOKです。
多分教室ではまた来週になっちゃうときに製作品をビニール袋かぶせたりコンテナの中に入れたりすると思いますが、乾かないようにしているだけじゃなくて、結果的に水分のいきわたり方が均一化する作用もあるはずです。
かぶせたタッパーの底(つまり天井)に適度に細穴でもあけておけばそこから息が漏れるので、投げっぱなしでもきちんと蒸気圧が掛かりながら窯詰できるまで乾燥します。自分の場合、製品のサイズによってバケツかぶせたり一斗缶かぶせたり、塩ビ管やボイド管の片一方をラップでふさいだものをかぶせたりといろいろです。
乾燥専用枠にするならバケツや缶は底を抜いてラップかビニール袋にしておくのが便利。びっちょびちょになったら取り替えたり穴をあけたりすると中のコントロールが容易ですので。バケツの底を抜く場合はきちんと奥さんの許可を取らないとうちみたいなことになりますよ!(どんなだ!)
また、載せてる台がただの板だったりコンテナの中だったりすると作品の底がたまった汗でびちょぬれになっちゃうので、すのこの上に置くのが胆、ケイカル板や石膏板などなら直でも大丈夫かな。
明日窯詰するけど乾燥が微妙なのがある?なんて時には、やばそうな奴を蒸気乾燥状態にして窯に入れて7~80℃にしっ放しにして一晩おけば自分の経験では焼いても大丈夫です。(度を越した真似をしなければ今日作って明日焼けます)それで割れた場合は乾燥原因じゃないですね。(と、ここまで書いてなんですが、この「乾燥一夜漬け作戦」、燃焼炉ではいろいろ無理だなあ)
とにかくこの蒸気乾燥に関しては、例によって「福岡の鬼脚」ことイノウエセイジさんの動画で詳しく解説してくださってるので大変参考になりますよ!
出た、やきもの界のスティバール
ここまでが、きちんとした正しい(よね?)乾燥テクニックの話。
ここからは禁断の乾燥法。つまり焼成中についでに乾燥しちゃおうという方法。しかもそこまで長いあぶりの時間引っ張らずに。
必要なものはサヤ、シャモット粉末、全然乾いてないブツ。の三つです。
朝作ったテストピース
上に乗ってるのは昨日の晩造ったやつ
偏乾燥してますな。
サヤの中にびっしり詰めたら
シャモットの粉末でうずめます。
ちなみに今回の場合、サヤも粉末もアルミナです。
追記・これはちっこいものなのでこうしてますが、あんまりビッシリ詰めるよりもある程度明けた隙間にきちんと粉末が回るようにすべきです。
埋めました。
出来る限り粉末層が厚いほうがいいです。
まあ実を言えばこんなちっこいテストピースめった壊れやしないし、そもそも曲がろうが割れようが関係ないんですけどね(どうせならネタにしようと・・・)
とにかく「粉末埋め焼」
これはファインの世界では常識ですが、一般陶磁器ではたとえばボーンチャイナとか先に本焼きしてから低温の釉薬掛けるようなフニャチン素地(われら業界でいう【踊る素地】そりゃ焼きあがればカチンコチンですよ)の類ではそうしてるのもあるらしい、ってことしか聞いたことないんですよね。ムック本ではこれやってるの一冊しか見たことないです(「ろくろのいらない陶芸」おもしろい本ですが、正攻法の技術として取り扱われてるわけではない)
この焼成法はいくつか利点があって、
1、機械的圧力がパスカルチック(何とはなくね、造語ですよ)に掛かるので反ったりゆがんだりしずらい。
2、蒸気圧が掛かるので水分や有機溶剤、解膠材やバインダーの蒸発、脱脂に関する面で有利(ただし昇温時間ペースは材料しだいの面はある)
3、(輻射熱を直接喰らわないから)部分的な偏熱はしにくいのでそれが原因での反ったりゆがんだりがしにくい。
4、窯出しするときに化石掘ってるみたいで楽しい
5、カオリンとか酸化亜鉛の煆焼にも使えるかも(いま思いついて補筆)
今回の場合は2、ボーンチャイナなどに関しては1と3が働いてるという感じ。ただし、今回みたいにまだヌレヌレヤワヤワな品焼くってのはまあ特殊ですよ。たまにはそっちのがいい場合があってわざとやりますけどね。
本質的にはサヤ詰で焼成するのをもっと極端にしたパターン何じゃないかと思います。
ムク棒ものや板ものなどには効果ありです。
ただしデメリットも、
1、メンドッチイ
2、釉焼成つまり一般陶磁器の多くの場合の本焼きには使えない
3、いろいろ道具がいる
4、形状にもよるよなあ~
5、素焼きでない場合、やたらキープ時間が掛かるもしくは温度帯を上げねばならぬ。
なんていう特殊な事情は置いておくとしても乾燥工程は超重要な上に多くの方がわかっていながら技術的にやりあぐねている、しかも陶芸本読んでもかなりなおざりっていうのが実情のように感じます。本書く人(というか書いてることになってる人ね)は本職のやきもの屋なんだから絶対気をつけてやってるはずなんですよ、オリテク(オリジナルテクニックね)もいろいろあるだろうし。つまんなくないんだからきちんと紹介しろよ!
また、自分では乾燥テクニックとしては多分二度としないとつもりなんで軽く紹介だけですが、
「減圧乾燥」まあ乾燥容器の中の空気を掃除機で吸って減圧する方法。簡易デシケーターです。理屈は気圧が下がれば沸点が下がるの類(多分)。
蓋付きの容器に吸い口をつける加工をするか、大きいポリ袋でくるんで掃除機で吸いまくります。容器はベッコベコにならないような丈夫なものを使ってね。
これは石膏や原料スラリー、釉泥漿中の空気を抜いたりするのにも使えます。透明な容器でやってみるとわかりますが、結構空気の泡ボコボコ出ますよ。
とりあえず
1、可能な限り均一に
2、可能な限り長い時間でゆっくりと
が、本手ではあります。よくテレビで見かける立派な窯元さんでも、なんか奥の方の薄っ暗いゲジゲジのいそうな感じのところに棚造ってサシ板並べてるじゃないですか?ようは湿気た日の当たらないところで、もっさり乾かすのがいいんです。削りや加飾のタイミングもゾーン広いし。
そこらへんを、頭に入れて基本を押さえておけば新しい治具(乾燥用の治具も結構使います)やK.U.F.U.(工夫)もひらめくと思いますよ。工業的には一般的なテクニックでもあんまり陶芸本に出てたの見たことないなあ、ってのがあれば思いつき次第紹介したいと思います。
あと乾燥をめんどくさくしたくなければ、放っとけばOKなものしか作んないし使わない。これに限るな。
今回のテストピースやタイルみたいなホントの「平板」を乾燥させるときは平らなケイカル板や石膏板に挟んで三~四段重ねたミルフィーユにしています。
ILMも真っ青のCGで説明するとこんな感じ
こうしておいてビニール袋でもかぶせておけば相当行けます。あんまり目方が掛かったりすると乾燥収縮できないで割れるパターンもあるのでその辺は適宜。多少大きくても同サイズの平面精度のいいものならシャモットなどの粉末を軽くふるってかけて重ねておけばトモザブ(トモツチの座布団)と同じ理屈なんで便利にできます。
まあ今回は蒸気乾燥の話だったんで板って反るよね~のパターンはまたの機会にしたいと思います。大分長くなっちゃったし。
恥ずかしがらずにバケツかぶせとけって話でした。これは全然「裏ワザ」ではありません!