2020年6月7日日曜日

鋳込み泥漿の濃度(流動性)調整について

 写真の無い記事です。すみません。

 前回記事では、切り糸の縒り方、作り方の記事の閲覧が多いんだよなあ~ってことで、誰も真似する気になれない「世界最速の糸の縒り方」を紹介しました。動画の内容はいい年こいてバカ丸出しですが、糸に手早く撚りをかける理屈は分かっていただけたと思います。

 他に閲覧数が多いのが、「排泥鋳込みシリーズ」「石膏流すシリーズ」でした。

 この感染症騒ぎの中(友達が、今地球は「コロナ雰囲気」と言ってました。ヤキモノ屋病ですね)、講座や教室に行けないし、自宅にロクロが無くてもできる成形法、ってことだったんですかねえ。



 直接質問もいただいてて、鋳込み泥漿の調整について知り合い含め3件ありました(本当は4件だったんですが、一人は某ファイン屋の若手の方だったんでそれはノーカン。会社の電話からいい度胸だよ君は!すばらしい!でもまずは仲間と自社の伝統を尊重し給え!俺より絶対レベル高いはずだ!)

 というわけで、排泥鋳込み用の泥漿について基本的な考え方のようなものを紹介します。
 何作るかとか、どんな土なのかとか、そんな都合でそんときそんときですから、具体的な数字をあげて語れないのは申し訳ないんですが・・・。

 鋳込み泥漿、なかなかゼロから一人で試してみても難しいのかもしれません。個人的にはロクロに比べて能率的だとは全然思わないんですが(ほとんどの場合むしろ逆)、かなり産業的と思われている成形方法なので、いわゆる陶芸教室なんかでは扱われなかったり、先生が仕込んで出来上がってるのを黙って使ってちょろっとやる程度なのかも? 
 確かに何でもそうですけど先輩と一緒にやりながら覚えるのが一番いいのは間違いないです。

 ただし、最初に知っとけばそれだけでちったあ役立つ、地図のようなものはあると感じているので、興味のある方はご覧ください。

 では、つくばセラミックワークスが誇る「SAS(Slurry Analysis Service =泥漿分析機関)」による大体こんな感じ表、をご覧ください。
見にくいので右クリック、新しいウインドウで開く、してください。

 ある一定の坏土の量に対して、右側が水分量(含む解膠材)多めつまり薄い、左側が水分量少な目、つまり濃い、という割り付けになっています。
 緑の文字は、そういったスラリー(=泥漿)物性に対する表現の仕方、内側の黒い文字がその場合に出くわす不都合の代表例、を記しています。

 やっぱ、写真がないと寂しいので最近作った鋳込みの製品を




 
 で、ちょうどいいって何よ。って所ですが、ちょうどいいスラリーの特徴、こうであって欲しいということをここに並べてみます。
 
 必ずしも大事な順ではないかもしれません。
 1・確実に離型する。これは絶対。

 2・着肉が均一に仕上がる。

 3・着肉時間が適当。
    遅すぎるのも早すぎるのも良くない。
      数字で時間を示すのは難しいのですが、
      粒子の細かい結晶水の残っている粘土鉱物が多いと遅くなる傾向です。

 4・偏析しにくい。
   偏析というのは配合されている各素材が、組成や粒度ごとにバラバラになってしまう状態。
 5・使ってるさなかでもどんどん流動性が悪くなってしまう。
  チクソトロピックな性質が強いとこうなります。

 6・離型までの時間ができるだけ短く、
  離型後だらだらとヨレっぽい性質を残さない。
  これもチクソトロピーに関連

 7・使ってる最中の沈殿、分離が起こらない方がイイ
  頻繁にかき混ぜるようでは成形体にエアが混じります。

 8・かき混ぜても泡立たない。もしくは泡の収まりが早い

 といったところでしょうか。

 ほかにも、焼成終わるまで、や、保管、等々というロングスパンで考えると・・・
 ・いつも収縮が安定している。
 ・泥漿状態でも径時変化に強い。
 ・焼成歪が小さい。
 という性質だけでなく品質管理に直結する点。
 また。
 ・オキニの釉薬との相性がいい。 
 ・簡単に安定した原料が手に入る。
 ・できれば安い。
 ・臭くない
 ・人体、健康への攻撃性が低い
 等々あげられるかもしれません。

 まあその辺は今回は置いておきます。
 単に、いいスラリー=成形に都合のいいスラリー
 ということで~す。

 泥漿調整の基本、つってもいろいろ流派や流儀があると思いますので、俺がやってるパターンで説明します。

 解膠材に何を使うかでも変わるんですが、原料の乾燥重量に対して有効成分が0.3%~0.5重量%(以下w%)というのを基準としましょう。
 つまり、原料に対して0.5w%の解膠材を使ったら、もう水分以外は加えない、ということです。
 ただし、水分は原料の重量に対して45w%を超えるようでは行き過ぎな気がします(あくまでも一般論だけど)

 逆に、決まった量の原料に対して水30w%使ったもの、35w%、40w%といった具合に準備して、そこにそれぞれ解膠材を測りながら投入し混練、具合のいい泥漿になった割合を選ぶ。という方法もありえます(特に使ったことがない解膠材にたいしては)。

 そこで先のいいスラリーの条件を一番満たしているものをチョイスすればいいわけです。
 まあ一般陶磁器の坏土はそもそもナマモノ、というか組成的バラつきの大きなものですし、気温や水温、湿気など季節や環境によっても変わりますし、何も違うことしてないのにこないだまでとなんか違~う、なんてことも結構あります。大体そんなときは心の中で原料メーカーのせい、ということにして精神の安定を図っています(笑。ごめんね!

 慣れてくれば水ガラスぐらい目分量でやっても致命傷負わないようになりますよ。自分の中で基準の振れ幅が会得できるまではこの方法で慣れてみてください。
 水分量と解膠材の量を測り、良く混練し、一晩おいて試してみる。なんていうのをいつも同じようにやってれば、そのうち勘でできるようになります(多分。
 あ、言っときますけどファインの時はポットミルのボールのサイズまでキッチリ揃えてますよ。鋳込む直前、最後の調整は勘に基づく現物合わせですけど(読者のほとんどは実験室の先生なので強調しておきます!!)

 ここまでお分かりいただけたでしょうか?

 では、よくあるいい泥漿の言い伝え、的なものにメスを入れておきます。
  これね、これ

 切れずに細く糸を引くように流れるのがいい泥漿。
 これは正解です。まあほとんどの場合正解です。
 ただし、こうじゃなくても全然OK!むしろそっちの方がイイって場合もあります。

 こういう物性を示す泥漿にするのが目的なのではなく、使いやすいいい泥漿は、糸を引くように流れる性質を示すことが多い傾向がある、程度に捉えましょう。あと糸を引くってのは比喩ですよ。細ーくなっても途切れずにつーと流れるってことです。チェーンソーオイルみたいに本当に糸を引いていたらそれは解膠材多過ぎです!
 とにかく、あなたとその土にとって、作りやすくて実際出来も良かった時の泥漿の状態がいい状態です。当たり前ですけど。
 
 で、その状態が一応理想的な泥漿の状態であるとして、その理由。
 なるたけ少ない水分量で=粒子同士の間隔が密で良く絡み合い、でも流動性が高い状態であるといえます。
 無きゃ無いでイイ、実際焼けばその分無くなる物体=水が必要最小限に近いということは、素地ボディが緻密に成形できる=いろいろ強いということが一つ、
 でそれの流動性がイイってんだから、均一な肉厚で細かいところまで細密に写し取り、もちろん素地そのものの部分な粗密のばらつきが少ないということになるんだと考えられます。
 均一に、密に、強く成形できる、ということでこれは焼成しても優れた「組織」が作れるわけです。理屈の上でですが。もちろん実際も正しいはず。

 これが基本的な考え方ですのでぜひチャレンジしてみてください。これ以上細かく話し出すともうグダグダ間違いなしですけど、ここまでは間違ってないと思いますよ(笑

 個人的には、排泥鋳込みの場合に関しては、ちょうどいい範囲のうち、流動性の高い若干薄目のスラリーが好みな気がしています。

 水分量を少なくしてできるだけ濃い方がいい。という言い方もよく目にし聞きますが、成形できる限り濃きゃ濃い方がいいという風には考えない方がいいと感じています。
 むしろ、偏析したり分離したり成形体がラミネーションしたりしない、成形作業自体や工程管理に支障がない限り、あんまり濃いよりは薄めの方が扱い易いと思いますよ。

 濃いとチクソトロピー的性質(止まってると粘度が高くなり、速度がないと流動性が上がらない)が強く出過ぎて扱いにくくなるんですよ。とにかく作業に支障がない限り出来るだけニュートン流体に近い挙動を示すように調整したほうが扱い易いです。
 それでも釉薬なんかと比べるとかなり濃厚な感じなのでそういう言い方になってるんじゃないかな?

 参考にしてみてくださーい。




 では、ここからつくセラ的無駄話。
 この鋳込みの、均一に、方向性や粗密のばらつきがない、というのが鋳込みの強さですが、同時に弱点でもあると思っています。

 それは焼成歪みに現れるんですが、そうなるとロクロ成形との違いをラミネーション視点から比較解説しないといけなくなるので、もうだいぶ長いし別な機会に譲ります!

 でも、ここまで来るともう興味ある人は少ないかな?



 こんな細かい話をここまで読んでくれてありがとうございます。
 お礼に、このご時世、あんまり辛気臭いのは嫌だけど、気を抜くわけにもいかない、ということで、そんな今にぴったりの本(文庫本)を紹介します。 


 左がそれ、先月文庫版が出た『ホット・ゾーン』
 エボラをはじめとするフィロウイルスを調べたり封じ込めたりって話。ノンフィクションのドキュメンタリーです。もとは結構古い本なので今現在の科学的検証がどうなのか知りませんが、小説として読んでものすごく楽しい(とあえて言います)。お風呂で読んでてお湯の中に落っことしたの初めてですよ。ぶわぶわになっちゃった。

 右はとっくに読んだ本引っ張り出してきました。
 『ワールド・ウォー・Z』
 ゾンビパンデミックを生き延びた人や壊滅した町はどういういきさつだったのかってのをドキュメンタリー、ジャーナリズムの手法で描いたフィクション小説。作者のマックスブルックスはメルブルックスの息子さんなんだって!映画ファン必読!
 もちろん映画もヒットしましたし俺も好きですが、この小説版の方がハッキリ上です。
 世界中の各村、各町に取材をした体、という原作の一番いいところが、映画版ではなくなっちゃってます。ブラピが主演じゃゾンビに食われたりしないよな~!
 でも嘆きの壁をよじ登るゾンビの大群、とか、ブラピとゾンビのだるまさんが転んだ、とか、ペプシ最高!とか見どころは多いっすよ!(抜け作な部分も大変多いけど)

 小説として素晴らしいノンフィクション、ドキュメンタリーとして素晴らしいフィクション。どっちも有名な作品ですが、読んで無い方いたら是非!

 以上、普段らしさを出すために、無駄話を入れてみました。



 
 



  今週、なんでアホ部分が少ないかというとですね、
 大変実績ある陶芸家で、ヤキモノブログとしていろんな意味(作品や写真が素晴らしい、文章が簡潔で巧み、技法解説が惜しみなくダダ漏れ、最近連発しているシンゾーディスが痛快、社会人を全うしてるので常識人、等々)で頂点としか言いようのない、桃青窯三崎さん(リンクの必要なんかないですよね)に、この下品が三つ揃えを着たような駄文が読まれている、という穴があったら入りたいような事実が発覚しまして、挙句の果てには、うちの工場を覗いてみたいなどというお言葉をいただき、たとえリップサービスでも嬉しくて、真に受けてその日に備えて畳を備後表に取り換えようかと舞い上がっております。が、予算不足でしたし、格からも年齢からもこちらから伺うのが筋、是非ご都合を見計らって突撃したい!!

 御存じない方も少ないと思いますが、是非リンク先を訪ねてみてください。素晴らしいので私からは何も説明することはありません。あ、でも、何が何でもアベセーケン支持!!みたいな人はやめといたほうがいいですよ。

 そんなわけで三崎さんに読まれてもいいように自分としては大変上品な記事になりました。
まあ、普段からたとえ話がオタクすぎてわかりにくい、連体修飾節が長すぎて読みにくい、なんていうお叱りも多いんですけどね。
 今後も上品かどうかは、わかりません!

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